フリーカメラマン

 

ある日、友達からアルバイトの話が持ち上がった。

「面白いアルバイトがあるんだけどやらない?」

面白いアルバイト?なんだろう?

「どんなの?」って尋ねると、話してる本人もよくわかってないらしく、

「よくわかんないけど、写真を撮るアルバイトらしいよ」

写真を撮る?カメラマンか?

「何を写真に撮るの?」

「さぁ?」

まったく、頼りになる友達で、よくわからないまま話しをもってきたらしい(笑)

「ただ、怪しいバイトじゃないから、安心して!」

いやいや、既に十分怪しい!

「とりあえず、今度の水曜日に話を聞きに事務所に行くんだけど、空いてる?」

もちろん、暇な主婦です、何も予定など。。。

迎えに来る時間を決めて、電話を切った。

当日、きちんとした?事務所らしきところで、依頼人と対面。

まるで今までも一緒に仕事をしてたかのような話しぶりに驚きつつも話を聞く。

「で、電柱の写真を撮って欲しいわけ!」

で。。電柱?何で?なんで電柱の写真?それも角度を変えて5枚も?

「○○Tさんからの依頼で、なんかいるらしいよ写真が。」

またしてもよくわからないまま。。。

「じゃあ、写真の撮り方講習しようか。」

デジカメで写真を撮ってみる。なかなかうまく撮れるもんだ。

「ココと、これを忘れずにいれて、うんぬんカンヌん。。。」

なるほど。。。専用のデジカメ。。。よくできてる、が、めんどくさい。

まあ、これで二人で撮るところを一人で撮れるようにしてるのはなかなかの案でしょう。

寒い12月の中ごろの1週間、わたしはある地域の電柱を撮って歩くことになった!

ごてごてといろんな小道具がつけられたデジカメ。

見るからに怪しい。

昼の日中である。怪しくてもまあ怖くはないか。。。寒いけど。。

かじかむ指先で、シャッターを押す。

遠くから何気にこちらを見ていた年配の女の方二人が、おもむろに近づいてきた。

「電気、止まるんですか?」

なんで写真を撮ってるだけで、止まるという発想になるのかわかんない。

「いえ、写真を撮ってるだけで、電気は止まりませんから。」(にこっ)

安心したように微笑んで、立ち去って行く二人連れを横目に、またシャッターを押す。

次の日、住宅街のある家の前の電柱を撮っていたら、

その家の奥様とおぼしき人物があたふたと出てきて、

「盗聴器探してるんですか?」と、声をかけてきた。

「いえ、電柱の写真を撮ってるんです。」(にこっ)

「そう、なんだか最近盗聴器探してる業者があるそうね。」

何か盗聴器に心当たりでもあるのか、探して欲しいのか。。。

そうじゃないことがわかると、またそそくさと家の中に入って行った。

確かに怪しい。

変なカメラ持って電柱の写真撮ってるやつなんか、いまだかつてわたしだって見たことない!

でも、こんなかわいい(?)女の子が写真を撮ってるのだから、

されほど怪しまれないだろうと思っていた。

いやいや、十分に世間様は怪しんでいたらしい。

その当時のわたしは、友達に

「今なんの仕事してるの?」と、聞かれるたび、

「フリーカメラマンよ。」と答えていた。

うそではない。

そのあと必ず「何撮ってるの?」と聞かれる。

一言、「電柱!」と、答えるとやっぱりだれしもが「?」という顔になる。

わたしだって、「?」のまま、仕事を終えたのだ。

はかない「フリーカメラマン」であった。