実際のシステム運用となると技術論だけでは太刀打ちできない。なぜならばシステムを使うのは「人」であるからだ。実際の利用者はコンピュータに初めて触れるビギナーかもしれないし、自宅にも複数台パソコンを持つマニアかもしれない。あるいは事務部門のように終日オフィスワークをしているかもしれないし、営業のように社外で活動するのが仕事かもしれない。新入社員かもしれないし、取締役かもしれない。吸収力が早く応用が得意な人かもしれないし、決められた手順を決められたようにこなすのが得意な人かもしれない。更に会社の体質も10社あれば10社とも異なる。
このようにさまざまなタイプが存在するので「これが決定版」という運用方法は実際のところ存在しないのが実状だ。
ではどうすればよいのだろうか?
システムを運用するにあたり「ここは押さえておかなければならない」といった箇所がいくつかあるのは確かだ。本章では勘所と運用のガイドラインになりそうなヒントを紹介する。実際の運用方法は、筆者より会社の実状を良く知っているあなたが考えなくてはならない。
さて、運用を考えるにあたり真先に着手しなくてはならないことは「運用基準」を作ることだ。基準といっても学校の校則のように馬鹿げた規則を作るのが目的ではない。あくまで利用者が迷うことなくシステムを利用することができるようにする「ガイドライン」である。
ガイドラインを考慮する際にもう一つ考慮する点は、機密情報に対する扱いである。2005年4月施行の「個人情報の保護に関する法律」の様に法的に拘束力を持つ情報管理基準がある場合は、これを必ず考慮する必要がある。
ガイドラインを作るコツは「いかにわかりやすく簡潔に表現するか」に尽きる。分厚いマニュアルは引き出しの肥やしになるのが関の山だ。
また、紙媒体で人数分のマニュアルを作るのも手間だし、紛失や汚損交換用に予備を作っておく必要もある。改訂による差し替えも発生するし、第一資源の無駄使いだ。せっかくイントラネットができる環境が準備できているので、Webで公開するのはどうだろう。ガイドラインのトップページには各項目と概略と改訂箇所が書いてあり、くわしい説明が必要な時にだけリンク先の詳細説明を読んでもらえばよい。これならば簡易マニュアルと詳細マニュアルの両方を兼ね備えたものになる。ハイパーテキストの良さだ。紙に印刷しないので紛失する心配もないし、改定時の差し替えも配布しなくてよい。
紙で必要だと思う人は自分で印刷してもらうくらいの割り切りを持ってもよい。
それでは運用基準には何を記載すべきであるか、代表的な例を挙げてみよう。
パスワードはいうまでもなく、正当な利用者であることを証明する重要な鍵である。どんなに堅牢な扉であっても鍵を複製されてしまうと無意味なように、パスワードが流出してしまってはコンピュータシステムのセキュリティは無意味になってしまう。コンピュータは、不正に入手したユーザーIDとパスワードで第3者がログインしようとしているのか、正規の利用者がログインしようとしているのか判断できない。つまり、コンピュータは正面突破されることに対して無力である。もちろん指紋や網膜で個体認識をするシステムも存在するが、一般のオフィスで利用する場合はコスト的に見合わない事も多い。
パスワードは「金庫の鍵と同じ」ことを徹底する必要がある。もしパスワードの重要性を理解してもらえないのであれば、少なくともインターネット接続は断念すべきだ。
そういった意味でパスワードは簡単に見破られないことはもちろん、管理そのものにも注意を払わなくてはならない。このあたりはWindows Server
2003のグループポリシーを使ってある程度は強制できるが、基本は「ルールとそれを守る心がけ」であることを忘れてはならない。
パスワードは一般的に「アルファベット(大小)、数字、記号の組み合わせで8文字以上。望むらくは9文字以上」が数学的に見破られにくいとされている。生年月日、住所、電話番号、親族/友人/知人の名前は見破られやすいのでお薦めではない。
本来ならば定期的にパスワードを変更するのがよいが、これは利用者の利便性とトレードオフになるのでケースバイケースだと考えればよい。
もっとも注意すべきことは「パスワードは頭の中に記憶してメモに書かない」ことである。クラッキングの初等技術としてソーシャルエンジニアリング(ゴミあさり)がある。メモに書いたパスワードはゴミ箱経由でいとも簡単に流出するのだ。もっと巧妙な手口もあるが、まずは初等技術に対応できてから考えても遅くはない。
手帳はメモ紙よりましだが危険であることに変わりない。手帳は肌身離さず持ち歩くのが常なので、ついつい大切な情報全てを書き込んでしまいがちだ。紛失時には大切なデータ一揃いがそのまま流出といったことになりかねない。
付箋紙書いて机やモニターに張り付けるのは言語道断だ。
コンピュータ上には様々な情報が保存される。ところがこの情報の中には機密事項や社外秘に該当する情報も少なくない。
情報には機密レベルを決めてレベルに応じたアクセス権や扱いを決めるべきだ。例えば、以下の機密レベルを定めると良いだろう。
<定義>
漏洩した場合、会社あるいは個人に著しい損害を与える可能性が高い情報
ごく一部のメンバーのみがアクセスする事を許された情報<例>
人事情報、資金情報等の人事/経営に直結する情報<扱い>
取扱厳重注意
再利用絶対禁止<廃棄方法>
内容が判読出来るような方法廃棄してはならない
紙媒体情報は必ずシュレッダー処理
電子媒体情報は完全抹消あるいは破壊廃棄<具体的な情報>
・経営資料
・経理資料
・人事資料
<定義>
漏洩した場合、会社、個人あるいは顧客に損害を与える可能性が高い情報
業務遂行上関係メンバーであればアクセス自由であるが、関係メンバー以外は必要時以外のアクセスが好ましくない情報<例>
業務遂行上入手したデータ、あるいはビジネスモデルの全貌が見通せる資料等<扱い>
取扱注意
再利用(裏紙等)禁止<廃棄方法>
内容が判読出来るような方法廃棄してはならない
紙媒体情報は必ずシュレッダー処理
電子媒体情報は完全抹消あるいは破壊廃棄<具体的な情報>
・契約書
・新商品企画書
・マーケティング分析資料
・個人情報
・業務フロー
・データベース設計資料
・ネットワーク図
<定義>
業務遂行をするにあたり、社員であればアクセス自由な情報
社外者の提示を禁止した情報<例>
業務ノウハウ、社内様式<扱い>
取扱注意<廃棄方法>
廃棄する場合は判読が簡単にできる方法で廃棄してはならない
紙媒体情報は手で破る等内容が判読できないようにする
電子媒体情報は消去<具体的な情報>
・諸届け
・業務マニュアル
・議事録(内容によっては機密扱い)
<定義>
社外者に対して提供する事を目的に作成された情報<例>
会社案内等<扱い>
特に定めない<廃棄方法>
特に定めない<具体的な情報>
・会社案内
・封筒類
サーバ上にある情報は比較的管理がしやすいが、クライアント上にある情報は厄介だ。特にノートパソコンやリムーバルメディアに社外秘以上のデータを入れて持ち歩く場合のガイドラインは必ず明示すべきである。
基本的に社外秘以上のデータを持ち出すことは禁止であるが、やむを得ない場合は暗号化を施すなどの対策は必須である。
ログオンとシャットダウン(と電源ON/OFF)方法は、図解マニュアル(文章はほとんど必要ない。絵本ライクなものがよい)を作るのがよい。数度しか使われないが、このレベルで呼び出しを食らうのはたまったものではない。
たかがログオンとシャットダウンだが、初めてコンピュータを触るビギナーには手ごわい相手のようだ。
キーボードとマウスの使い方のマニュアルが本当に必要かと思われるかもしれないが、パソコンを初めて触るビギナーにとってキーボードとマウスは未知との遭遇である。具体的な操作方法は講習会で説明し、マニュアルはそのリファレンス的な位置づけでよい。
記述するべき内容はダブルクリックや大文字小文字、カナのON/OFF程度の用語と簡単な説明で十分だ。電話サポートをする予定があるならば記号とその読み方、キーボード上の位置も書いてある方がよい。
「NumLock」の説明は必須である。数字が入らないと呼び出されるうち十中八九はNumLockが外れているだけだ。そういった意味では記号の入力方法もあった方がよいかもしれない。
ビギナーが一番初めにつまずくのがIMEの使い方だ。これも基本的には講習でみっちりとトレーニングして、マニュアルは補足的な扱いでよい。特に引っかかるのが「確定」と「変換中」の違いが区別できていないことが原因のトラブルが多い。高度な操作テクニックは必要ないが、最低限の入力に必要な操作が簡単に書いてあることが望ましい。
IME絡みの良くあるトラブルとしては「全角と半角」の違いである。人が読む分にはアルファベットの半角「A」と全角の「A」は同じであるが、コンピュータにしてみれば全く別物だ。インターネット時代を迎えたこともあり、半角カタカナは使わないように指導するのがよい。
クライアントとサーバの関係と使い方は講習会で説明する方がよい。マニュアルに記載すべき事項は目的のファイルをどうやって探すか、良く使う共有は「ネットワークプレース」やショートカットを作る方法も解説してあれば利用者としてはありがたいはずだ。
もう1つ大切なのはプリンタの接続方法である。パソコンの設置台数が少なかったり、利用者が少ないのであれば管理者が設定してもよいが、そうでない場合は接続方法を書いた説明書を配って各人設定してもらうのがよい。
各部署別に作成する共有は別として、管理者が標準で提供する共有は一覧にしておくのがよい。一覧表の項目としては、「共有名」、「目的」、「Active
Directory上の位置と名前」、「UNC名」、「アクセス権」である。
プリンタもActive Directoryで検索できるが、不慣れな人のために共有と同様な項目に設置場所を加えた一覧を作るのがよい。
ビギナー利用者はアプリケーションがデフォルトで付けたファイル名をそのまま使ってしまうことが多い。有意な名前を付けてくれるアプリケーションならよいが、機械的に付けられる名前にあまり多くを期待しない方がよいだろう。基準としては「第3者が見て内容が想像できる名前」を付けるようにしてもらうのがよい。特にサーバ上のファイルやフォルダ名はディスク整理をする時にも大切なキーワードになる。
フォルダ構造はほっておくと思い思いの構造になってしまうので、ある程度決めごとをしておいてガイドラインとして提示するのがよい。
仕事関係のファイルは全てサーバに格納すべきだ。そうすれば定期的にバックアップが取れるので安心だ。そういった意味ではサーバに格納しているファイルはサーバ上で直接更新するのがよい。破壊するのが恐いからといってローカルディスクにコピーしてから操作すると、サーバーファイルの更新忘れから整合性が取れなくなってしまうことが多い。
逆の意味では個人的なファイルはサーバに置かない方がよい。インターネットに接続していると、ダウンロードしたファイルがサーバー上のユーザーフォルダにどんどん蓄積されて、いつの間にやら業務用のファイルより巨大になってしまう。
いくらハードディスクが安くなったからといってもこれは資源の無駄使いだ。何をサーバに置いて、何をローカルに置くのかは明確なガイドラインが必要である。
ディスクの使用量が増えるとバックアップに負担がかかってしまうので、定期的にディスク使用量をチェックし、不要ファイルは適宜削除する必要がある。ディスク整理を怠ると、サーバのハードディスクがゴミファイル置き場になるのは時間の問題だ。もちろんクォータを設定して上限値をアナウンスしておくのは言うまでもない。
インターネットと接続可能な環境であれば、ブラウザとメーラーの設定方法はキャプチャ(ハードコピー)を多用したマニュアルを準備しておくのがよい。セットアップのたびに呼び出されるのはたまったものではない。
マニュアルは指定したブラウザ、メーラーの設定方法だけでよい。それ以外のソフトを使う人は自分で設定するだけの技量は持っているはずだ。
インターネットは諸刃の剣である。上手に使えば強力な情報源とコミュニケーションツールになるが、決して安全なところでもない。セキュリティと利便性をどう両立させるか。
メールを使うべきシーンと使ってはいけないケースはどんな時かを明確にガイドラインにしなくてはならない。このレベルになると基本的な社員教育の次元になってしまうが、放っておくと電話あるいは直接会って話しをしなくてはいけない事項までもがメールで済まされてしまうこともあり得る。
パスワード管理とメールの信頼性に関して重点的に解説する必要がある。
また、検索エンジンの使い方と目的の情報を短時間で探し出すテクニックが解説してあると情報収集を命じられた担当者に喜ばれること請け合いだ。
インターネットを利用するのであれば「ネチケットガイドライン」は必読である。
http://www.cgh.ed.jp/netiquette/
から入手可能なのでガイドラインに加えるのがよい。
インターネット、特にWebは時間と距離の壁をなくす巨大なデータバンクであるとともに遊びの要素も多分に含まれている。これはモラルの範疇であるが、会社の資産を使っているということをちゃんと意識しなくてはならない。
「必要に応じてインターネットトラフィックは監査することもあり得る」とあらかじめ明言してもかまわない。特にメールに関して「プライバシー」を問題にすることがあるが、会社の資産を使って業務遂行しているのだからプライバシーもへったくれもない。会社の資産でプライベートな通信をしている方が間違っている。プライベートで使いたければ自宅で通信すればよいことだ。
とここまで強硬になる必要はないが、公私のけじめは社員のモラルとして教育すべきである。
会社での情報は守秘義務が発生することが多い。このあたりも再教育しておくのがよい。
知らないあいだにメール通して社外秘情報が流出してしまったといった事故は過去に何度も繰り返されている。
ディスク整理時に削除されるファイルのガイドラインは明記しておいた方がよい。たとえば「サーバ上の一時置き場は不定期に削除する」とか、「出向者のプライベートフォルダはテープバックアップの上、削除する」とかである。
これ以外のファイルもガイドラインを決めて、管理者が定期ディスク整理をする前に利用者自ら削除するようお願いするのがよい。
単一場所で利用しているのなら、全館停電などでサーバが使えない日に仕事をする人はまずいないが、複数拠点の場合はこの限りではない。
サーバ増強/保守、全館停電、ネットワーク再構築等サーバが使えなくなる日が決定したらなるだけ早いうちにアナウンスしておくのがよい。
代表的なトラブルは対処方法をマニュアル化しておくと、つまらないことで呼び出されることが少なくなってよい。
・パソコンが起動しない
コンセントは電源が抜けていないか?
モニターの電源が抜けていないか?
モニターの電源は入っているか?
フロッピーが入っていないか?
ケーブルは全て奥まで刺さっているか? 抜けていないか?
・数字が入らない
NumLockランプが点灯しているか?
・パスワードを忘れた
管理者にパスワードの再発行を依頼する。
・ログインできない
LANケーブルは抜けていないか?
HUBの電源は入っているか?
HUBのランプが点灯しているか?
・ファイルを何処に保存したかわからなくなってしまった
「検索」で探す。
・大切なファイルを消してしまったあるいは上書きしてしまった
管理者に依頼してバックアップから復元してもらう。
・パソコンがハングアップしてしまった
処理に時間がかかっているだけかもしれないのでしばらく待つ。
マウスカーソルも動かなくなっているのであればリセットする。
・インターネットが接続できない/メールの送受信できない
設定に間違いはないか?
LANには接続できているか?
他のパソコンも同様の状況か?
・妙なメールが来た
基本的には読まずに削除する。
ファイルが添付してある時は絶対に開いてはならない。
何度も来る時は管理者に相談する。
よくわからない時はそのままにしておいて管理者に連絡。
・妙な動きをする
そのままにして管理者に連絡する
マニュアルにすべきものと講習として説明すべきもの切り分けは簡単だ。講習では「慣れが必要なもの」と「概念的な説明が必要なもの」に限定してしまってよい。
たとえばワープロや表計算ソフトの基本的な使い方は慣れが必要であるが、ある程度操作ができるようになれば、応用テクニックはマニュアルを見て自習することができる。
クライアントとサーバの関係のように、概念的な説明と基本的な操作は講習で説明するべきだ。
概念説明や慣れが必要な操作を文字にするのはなかなか骨が折れるが、身振り手振りあるいは実際に操作しながらであればそんなにたいへんなことではない。
マニュアル、ガイドラインはこれらのレベルがクリアできている前提であれば、作成するのにそんなに苦労しないだろう。
言い換えると、講習会では基本的なことに重点を置き、じっくりと確実にマスターしてもらう方向がよい。マニュアル/ガイドラインでは講習会で説明したことが思い出せるようなエッセンスと利用に必要な応用テクニックと考えればそんなに悩むことはないだろう。
社内講習だと費用がかからないようにも思えるが、人件費と期待損失が隠されていることを忘れてはならない。
たとえば不慣れな講師のために1つのお題の社内講習が4時間で、事前準備に10時間必要だったとしよう。これに対しプロが実施する社外セミナーが同じ内容で2時間コースだとする。
一人あたり人件費と一人あたりの売上を時間で割ったもの合計を仮に1万円とし、社内講習で5人が受講する場合は、
(6人(講師+受講者)×4時間(講習時間)+10時間(事前準備))×1万円=34万円
これだけの経費がかかることになる。
これが社外セミナーの場合は、
5人(受講者)×2時間(講習時間)×1万円=10万円
この経費計算になるので、受講料が24万円以下であれば、社外セミナーを使った方が安上がりなのがおわかりであろう。
社内講習をする場合は、更に場所と機材も確保しなくてはならないが、社外セミナーの場合はその心配もない。
ワープロの使い方など社外委託しても問題がない内容については、社外セミナーを検討する余地は十分ある。
社内で講習会を開くことが決まり、もし、あなたが講師になる場合、まず真先に考えることは「何を伝えるのか」である。講習会に不慣れなうちはあれやこれやいろいろ詰め込みたくなるものだが、これは逆効果だ。ある程度コンピュータに親しんでいる方が対象であれば少々詰め込み気味でもなんとかなるが、そうでないのなら講習会の焦点がぼやけてしまい結局時間の無駄使いで終わってしまう。
講習会を成功させる秘訣は「明確な目的を持つこと」これが第1歩である。
明確な目的とは「これだけ知っていれば、とりあえずは仕事で使える」である。人間の頭脳構造は反復により記憶が定着するようになっている。反復を実践するのであれば詰め込みが無意味、いや不可能であることはご理解頂けるだろう。「反復」を無視すれば結局頭には何も残らないことになりかねない。
まずは講習会の「目的」を明確にすることからすべては始まる。
講習会はきっかけに過ぎない。しかし、きっかけが掴めれば自分で調べたり、マニュアルを読んで理解を深めることができる。
思い切ってぜい肉を削ぎ落とすことを考えよう。
目的が決まったら、次は講習会のシナリオ作りだ。シナリオといってもプロが使うようなタイムスケジュールまで考えたものである必要はない。
「人が物事を理解するプロセス」を考えながら、自然に展開できる「順番」を考えるのだ。たとえばサーバとクライアントの関係を説明するのであれば、いきなり「サーバのハードディスクはクライアントからアクセスできます」といった切り出しはやめるべきだ。初めてコンピュータに触れる方が対象であるのなら、その人たちが慣れ親しんでいる言葉で始めなくてはならない。「サーバとはデータというお金を預ける銀行です。皆さんはお金を引きだすために銀行に行きますよね」と比喩を使った切り出しもよいだろう。
シナリオではどのような順番で何を説明するかを大まかに決める。大まかな流れが決まったら、各段階で何を理解してもらうか、そのためにはどのような説明あるいは実技をしてもらうのかを書き加えれば完成だ。何度も言うようだが決して詰め込みすぎないことが肝心だ。反復練習も考慮に入れ少なめかなと思えるくらいでちょうどよい。実際の講習会では思わぬハプニングが起きるので時間が余る心配はさほどない。時間があまりそうなら受講者の理解度を(感触として)確かめながら、更に反復しつつ応用に踏み込んでいけばよいだけだ。
講習会にはちょっとしたテクニックがいくつかあるので、それを紹介しよう。
・時間帯
午後、それも昼食直後は避けた方がよい。全身の血液が消化器官に集中する時間帯は脳に十分な酸素が運ばれず強烈な睡魔となって受講者を襲う。
夕方になると仕事の疲れとアフターファイブが気になって講習会どころではない。時間帯としては「午前中」が狙い目だ。
・ヘッドアップ
資料一辺倒だと、受講者はどうしてもうつむき気味になってしまう。ずっとうつむいていると睡魔が襲ってくるのは誰もが経験あることだろう。ときどきホワイトボードに何か書くなどしてヘッドアップを試みるのがよい。あるいは講師が話しながら移動して頭の横回転運動をさせるのも効果的だ。
・体を動かす
頭だけではなく、手足も動かすことにより脳は更に活性化することができる。わざと資料に大切なことを書かず、書き込みを必要にするのも1つのテクニックだ。
一番効果的なのは「実技」だろう。ただし実技の場合はレベルが近い人を集めないとスムーズにことが運ばない。わかっている人はどんどん先に行こうとするが、初めて触る人はどうしても遅れ気味になってしまう。遅れまいとすればするほど気持ちがあせり講習会どころではなくなってくる。これが蓄積していくとストレスになってしまいコンピュータ嫌いにならないともいい切れない。
・わかる言葉を使う
専門用語を使って説明するのは簡単だが、今までコンピュータと縁がなかった人にとっては宇宙語を聞かされているようなものだ。受講者の知識レベルに合わせて臨機応変に言葉を選択する必要がある。「比喩」が有効なことも多いので、いくつか比喩の候補は事前に考えておくのがよい。
・声を出してもらう
声を出すといっても学校の授業のように誰かに答えさせるのはあまりよい方法とはいえない。かえって萎縮を誘ってしまうデメリットの方が大きい。日本人の根底には「恥を嫌う文化」があることを忘れてはいけない。
一番自然な発声は「笑い声」だ。学校で面白かった授業を思い出して頂きたい。その中には必ず笑いがあったはずだ。
・めりはり
人が集中力を維持できる時間は思ったほど長くない。休憩は1時間ごとを目安にとるのがよい。講習中も気を抜くところと集中するところのめりはりをつけるのがよいだろう。
・リハーサル
社内講習だからといって、いきなりぶっつけ本番はいただけない。一度はリハーサルをするべきだ。リハーサルには誰か立ちに会ってもらい、終わった後に感想を述べてもらうのがよい。自分では気がつかなかったことがいろいろ発見できるはずだ。
自分で手製の教材を作るのであれば何部コピーしてもかまわないが、市販の書籍をテキストにする場合はちょっと注意が必要だ。ほとんどの本の巻末に無断コピー禁止が書かれているはずだ。受講者が5名いるのなら、講師分も含めて6冊の本が必要な勘定になる。使いまわしは一向に構わないが、書籍、あるいは雑誌をコピーして配布するのは、著作権法にふれるのであまり好ましくない。
管理職とくに部長職以上のセミナーは、別枠で個人レッスンを考えた方がよい。少なくとも部下いっしょに受講していただくのだけは避けた方がよい。コンピュータに明るい方なら大丈夫だが、一般論でいうと彼らは「できればコンピュータとは関わりたくない」と内心思っていることが多いらしい。そのような状態で部下の方が飲み込みが早く、更に管理職が落ちこぼれになってしまうと上長の面目丸つぶれだ。管理職はプライドが高い方が多い。このような事態にでくわしてしまったら、次のボーナスは期待しない方がよいかもしれない。
コンピュータシステムが稼働しはじめると利用者からなにかと質問が来るものだ。これを一手に引き受けるのが「ヘルプデスク」というセクションだ。
人数が多い会社なら専門に部署を設けてもよいのだが、所帯が小さければそれもかなわない。これを補うのが各部署の「キーマン」である。パソコンに興味を持っている人、あるいはすでにある程度知識がある人を抱き込んでヘルプデスクの代行をしてもらうのである。
ただし、キーマンにはそれなりの負担がかかるので、各部署の責任者に話を通しておくのは必須である。もっともそのような人は自然発生的にキーマンになってしまう。自然発生的に任せるのではなく、組織的に捉えることによりレベルアップのための研究会を開催したり、情報/意見交換会を開くことも可能になるはずだ。
とにかく一人で抱え込まずに、いかに分散するか、いかに情報を共有するかを戦略的に考えるのがよい結果を生むコツである。
ワンフロアであれば出向いてサポートするのは簡単だが、複数拠点にまたがっている場合は遠隔操作ソフトを導入するのがよい。移動時間は不要であるのがなんといっても一番だ。
ワンフロアであっても各パソコンの健康状態をチェックするために遠隔監視ソフトを導入するのは有効な手段である。
業者によってはヘルプデスクをアウトソーシングしてくれるベンダーが何社か存在する。サポート人員を捻出できないようであれば、アウトソーシングも視野に入れておくのがよい。最近はメーカーのサポートセンターがヘルプデスクとして機能する契約もあるので、一度問合せてみるのもよい。
保守契約もさまざまな形態があるので会社の実状に合わせて契約するのもよい。
運用基準の作成
□ パスワードのガイドライン
□ 情報の扱いガイドライン
□ 簡単な操作方法マニュアル作成
□ 共有資源の使い方マニュアル作成
□ ファイル/フォルダの命名ガイドライン
□ ネチケットガイドライン
□ 守秘義務
□ ディスク整理
□ トラブルシュートFAQ作成
講習会
□ 社内講習と社外セミナーのコスト
□ 何を伝えるのか
□ シナリオの作成
□ リハーサル
□ 管理職は別枠で講習しよう
管理
□ ヘルプデスクと遠隔監視
□ アウトソーシング
Copyright ©2005 MURA All rights reserved.